| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-198 (Poster presentation)
シカの個体密度増加により日本各地で森林下層植生が衰退してきている。これに対しシカ排除柵の設置が各地で行われており、植生が回復したという報告や種構成が従来の植生とは異なるものになったという報告がある。種の豊富さや構成は生態系の安定性と相関すると考えられていることから、柵の設置による植生回復は生態系の安定性を高める効果があるかもしれない。系統多様性は種の豊富さや構成を評価する指標であり、生態系の安定性と相関する。そこで本研究ではシカ排除柵を設置したときに植生がどのように変化するのかを種多様性、系統多様性の観点から分析した。
京都大学フィールド研の芦生研究林のスギ人工林間伐区、未間伐区、河畔草地、標茶研究林のミズナラ林(下層除去区、対照区)にシカ排除柵を設置した。ただし、柵設置からの経過年は調査地間で異なる。柵の内外に1m2の調査区を多点設けて、調査区内の出現種を調べた。調査地、調査区レベルで種多様度と系統多様度を算出し、処理(柵の有無)の効果を比較した。系統多様度はGastauer & Meira-Neto (2013)の分岐年データとphylocom (Webb et al. 2008)により系統関係を作成し、算出した。
柵内の種数は柵外の種数よりも多くなっていた。ただし、柵設置から5年経過した調査地では種数は減少していた。これは被食圧の低減により一時的に種数が増加するものの、特定種の優占により他種が抑制されたためと考えられる。種構成は柵の有無によって異なっていたが、系統多様度の差は有意ではなかった。これは、柵設置により種構成が変化しても生態系の安定性は変化していないことを示している。しかし、柵設置区がない場合、幾つかの種が消失すると系統多様性が低下することを示唆しており、柵設置は調査地の生態系の安定性に寄与していると考えられる。