| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PB2-200 (Poster presentation)
近年、自然保護を第一義としていないエリア(マトリックス)においても生物多様性の保全に配慮する方法として、保残伐施業が注目されている。これまでの先行研究では林分スケールでの保残伐施業の保全効果が評価されてきたが、景観スケールでの評価は行われていない。本研究では、保残伐林を実験区、非施業林を対照区として生物種数および優占度を比較した31の研究事例を対象としたメタ解析を行った。Landsat衛星画像とFRAGSTATSを使って、各研究事例が実施された対象地周辺の森林の面積率、森林パッチの形状の複雑度、および森林パッチの連結度の3つの景観パターン指数を算出した。これらの指数の計算には、対象地から1km、3km、5km半径内の衛星画像データを用いた。生物種数および優占度の効果量(Hedges’ d)を応答変数としたGLMMを使って、景観パターンの影響を評価した。
解析の結果、応答変数が出現種数および優占度のいずれの場合でも、全ての説明変数(森林の面積率、複雑度、連結度)を含んだモデルが最も低いAICを示した。説明変数を一つだけ除外したモデル同士を比較した場合、森林の連結度を除外したモデルでAICが最も増加し、森林の面積率を除外したモデルではAICの増加は比較的小さかった。また、森林の連結度が出現種数に有意な負の影響を与えていた。景観中における森林の連結度が低い条件では、保残伐林において非施業林よりも出現種数が多く(Hedges’ d >0)、連結度が高い条件ではその反対の傾向があった。さらに、森林の連結度の増加に対する出現種数の減少の傾きは、用いた半径(1km, 3km, 5km)の拡大に伴って大きくなった。これらの結果から、特に広範囲にわたって森林の連結度が低下している景観において、保残伐林が生物の移動経路として利用されており、多様性保全において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。