| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
シンポジウム S12-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
シカによる森林植物への影響は、小サイズの樹木個体や樹皮の採食による構造の変化と、林床植生の採食による植物相(フロラ)の衰退として現れる。一方で草原の調査例は乏しいが、最近では本州中部の山岳地などで大きな影響が報じられている。
北海道では1970年代以降に急増したエゾシカによって農林業被害が拡大するとともに、自然植生も変化した。1)シカが高密度で生育している知床半島、2)高密度かつ閉鎖系の洞爺湖中島、3)実験的に密度操作している北大苫小牧演習林に加えて、北海道東部での広域的な調査事例や、シカの生育しない国後島の状況なども交えて報告する。
森林においては、梶らの調査によってシカの密度上昇に対応した構造変化が解明されている。林床変化の報告例は少ないが、洞爺湖中島では宮木らが著しい衰退を報じており、苫小牧の高密度区(約30頭/平方km)では選好性の高い種が減少している。しかし、知床の先端部、岬地区では不食草が優占して相観的に大きく変化したものの、防鹿柵内では回復し、フロラに顕著な変化は認められていない。
草原では高山植生と海岸草原で影響が危惧されるものの、知床では、高山での採食は今のところ一過性のものにとどまっている。知床の海岸植生では越冬地を中心に相観的に著しい変化が生じたが、群落組成を綿密に把握した結果、採食で変化した群落でも本来の要素の種が小サイズで生育していることが多く、現時点では防鹿柵でシカを排除すると回復する。また、採食された種の避難地であるレフュージアが各所に分布している。
以上より、洞爺湖中島のように完全な閉鎖系で高密度になった場合にはフロラの崩壊すら懸念されるものの、それ以外の地点では、フロラの全体像は保持されている段階にあるといえる。