| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
シンポジウム S12-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
高密度の大型草食獣の採食圧によって下層植物の多様性やバイオマスが低下する例が数多く報告されている。しかしそれはどのような条件でも同じだろうか?また下層植物の消失によって森林生態系の物質循環過程はどのように変化するのだろうか。
日本の冷温帯林は林床に大型のササ類が優占することが多い。ササ類の根系はバイオマスが大きく、土壌栄養塩を保持する機能が髙いことが知られている。従ってシカの採食圧によりササ類が排除されると、それまでササに保持されていた栄養塩は流出するか残された樹木や微生物に吸収されると考えられる。
この仮説を検証するため、北海道の火山灰性土壌の冷温帯林3カ所で行われている10年間のシカ排除実験区とその周辺で林床植物のバイオマス、優占する落葉広葉樹3種の緑葉、リターフォール、土壌の栄養塩量などを調べた。知床と洞爺湖ではシカ排除区で林床にササが優占するが、シカ高密度区では採食圧によりササがほとんど消失している。一方、苫小牧ではシカ排除区でもササがほとんど生育しておらず、草本植物や下層木のバイオマスが高い。
実験の結果、知床と洞爺湖ではシカ高密度区が排除区に比べて優占樹木の緑葉とリターの窒素含量が高い傾向にあったが、苫小牧では差が見られず、下層植生のバイオマスと関係していると考えられた。
また、苫小牧研究林ではシカの密度操作だけでなく、林冠木の一部伐採と窒素施肥を組み合わせて林床植物の多様性の変化と樹木の成長の違いを実験的に明らかにした。その結果、林床植物の多様性の時系列変化はシカの密度よりその場の環境に強く影響され、樹木の成長量と死亡率はシカ高密度区のほうが排除区より高い傾向にあった。本報告ではこれらの結果からシカの存在が森林生態系の多様性や物質循環に与える影響について議論する。