| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T02-4 (Lecture in Symposium/Workshop)
系統種間比較法(PCM: phylogenetic comparative methods)は種間の系統関係を考慮した形質比較を行う手法であり,適応進化を検証するうえで有力なアプローチである.これまで,量的形質に関する分析では系統一般化最小二乗法(PGLS: phylogenetic generalized least squares)が用いられることが多かった.しかし,PGLSは形質進化が基本的にブラウン運動(ランダム浮動)に従うことを仮定するため,検証できるモデルが限られる.一方で,近年開発された近似ベイズ計算(ABC: approximate Bayesian computation)を用いた系統種間比較(ABC-PCM; Kutsukake & Innan 2013)ではより柔軟なモデルも検証できる.例えば方向性淘汰ならば,枝特異的に働く方向性淘汰の強さを推定することができる.発表者はこれらの手法を用いて,コウウチョウの托卵形質の進化を検証した.コウウチョウは宿主種数に非常に大きなばらつきのある托卵鳥であり(1〜216種),5種からなる単系統を形成する.外群の近縁種に托卵鳥はいない.また,最近分化した種ほど宿主種数が多い.これらの事実から,コウウチョウ系統はその祖先種で托卵形質を獲得し,その後宿主種数を増加させる方向性淘汰が種分化の過程でかかったと予想できる.2つの手法の分析結果を比較したところ,PGLSでは祖先種形質はgeneralist托卵種と推定されたが,ABC-PCMでは方向性淘汰が検出され,祖先種形質がspecialist托卵種と推測された.外群まで含めて考慮すれば,後者が妥当であると考えられる.本発表は複雑な適応進化を検証する際のABC-PCMの有効性を議論する.