| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T02-5 (Lecture in Symposium/Workshop)
近年,系統樹と複数の生物種の形質値から方向性選択による進化を検出する手法(Kutsukake & Innan 2013, Evolution)が提示されている。この手法では,表現型進化のシミュレーションと近似ベイズ計算(Approximate Bayesian Computation)を利用する。この手法を発展させると,形質の進化過程で作用した方向性選択の強さをクレード間で比較することが可能である。系統樹が推定されていれば,化石種と現生種の間でも方向性選択の強さを比較できる。このアプローチは,化石種の形質の機能や進化を理解する上で重要な知見をもたらす。もし選択の強さが同様ならば,現生種における形質の適応的意義が化石種に当てはまると期待され,選択の強さが異なるならば,化石種に特有の機能や進化要因があったと推論される。
適用事例として,ネコ科化石種と現生ウンピョウにおける上顎犬歯の進化を取り上げる。絶滅した肉食性哺乳類の中には,現生種では見られない長大な上顎犬歯を持つものがいる。これらの化石種の多くはネコ科に属し,サーベルタイガーと総称され,マカイロドゥス亜科に分類される。現生ネコ科(ネコ亜科)内で比較すると,ウンピョウは体サイズの割に長い上顎犬歯を持っており,長大な犬歯を発達させた化石種との形態の比較が行われている。しかし,化石種と同様の適応が生じているかどうかは未決着である。
化石種スミロドンの1種(Smilodon populator)およびホモテリウムの1種(Homotherium serum)を含むネコ科の分子系統樹が推定されている。これら化石種とウンピョウの上顎犬歯の進化における方向性選択を検証すると,ウンピョウにおける選択の強さは,化石種の中で犬歯の最も長いスミロドンに類似すると推定された。この結果は,両者の上顎犬歯が同様の適応進化によるものであることを支持する。