| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T03-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

送粉者間・送粉者-植物間の相互作用に影響する寄生者の存在

石井 博(富山大・理)

送粉者-植物間相互作用網は、生態系における主要な種間相互作用系の一つである。送粉者は農業においても重要な存在であり、古くから人の営みとも密接に関わってきた。このため、彼らの存在を脅かす(少なくともそう思われてきた)寄生者も、古くから多くその存在が知られてきた。

多様な植物種を含む群集の送粉機能は、多様な送粉者によって支えられている。そして、多様な送粉者は、それぞれの種が異なる植物種を利用しているように見えても、花蜜や花粉という共通の資源を巡り、潜在的な競合関係にある。従って、特定の送粉者に感染する寄生者であっても、その影響は送粉者間の競合を通じ、群集規模の送粉機能を改変する可能性がある。しかし、送粉系に及ぼす寄生者の影響が、具体例を伴って群集規模で語られたことは、これまでほとんどない。

マルハナバチタマセンチュウは、マルハナバチの女王を不妊化する寄生虫である。感染女王は営巣せず、夏まで採餌(訪花)を続ける。演者らが調査を行った地域(北海道上川郡)には、夏に毎年繰り返し感染女王(セイヨウオオマルハナバチ)が多くみられる場所がある。その場所ではアカツメクサの残存蜜量が少なく、働きバチによるアカツメクサでの盗蜜訪花が多く、働きバチの体サイズが小さかった。この場所から女王を除去すると、アカツメクサの残存蜜量が増え、働きバチのアカツメクサへの訪花が増加し、働きバチの体サイズが増大した。この結果は、タマセンチュウによる宿主操作が、花資源を巡る競争を激しくし、非感染個体である働きバチの体サイズや採餌行動にまで影響したことを示している。

本発表では、この事例をもとに、寄生者の影響が間接効果を通じて送粉者-植物相互作用網全体に及ぶ可能性について論じたい。


日本生態学会