| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T04-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
T字路を転向したダンゴムシは、続くT字路で先と逆方向へ転向する。この転向の交替は、人間やラット、節足動物等幅広い動物種において観察される。しかし、その発現機構は異なる。
ラットは転向の際、周囲の特徴を手がかりとして記憶し、続く転向では、その記憶を基に前回と違う方向へ曲がる。一方、ダンゴムシやワラジムシは、転向の際に生じる左右脚の運動量の違いを手がかりとし、その違いを逆転させる機構によって転向の交替を実現する。近年、多重T字迷路におけるダンゴムシの転向方向は、脚運動量の逆転機構によって生じる体の転向方向と逆方向の触角が選択点の壁へ接触することで最終決定されるという実験結果が報告されたが、いずれにせよ、ダンゴムシの転向の交替は、記憶に基づく経路の意思決定ではなく、機械的機構に基づく反応であると考えられている。
これに対し著者らは、ダンゴムシが通路内で止まって、あるいは前回の選択点まで引き返して生じる方向転換は、同方向の転向を繰り返す反復性の転向を、交替性の転向へ修正する機能を有することを近年見出した。その後の詳細なビデオ観察から、この方向転換直前の転向では、体の転向方向と壁へ接触した触角の方向は逆であることが確認され、方向転換は直前の転向の誤動作によって生じたのではないことが示唆された。
昨年、T字迷路を用いた空間ワーキングメモリ課題を遂行中のマウスが、間違いの経路を選択しそうになった際、方向転換によって行動を修正し、正しい経路を意思決定する現象が報告された。この課題遂行中の脳内局所電場電位計測は、行動の修正時、マウスが正解経路の記憶と現在の自身の行動を比較し、間違いだと意識的に気づくことを示唆した。
本発表では、ダンゴムシが記憶を手がかりに行動を修正し、転向の交替を意思決定する可能性を議論したい。