| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T05-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
生物の予期せぬ振る舞いはヒトを魅了し多くの疑問を抱かせてくれる.動物の群れもそのひとつだろう.群れ研究は技術的進歩によりここ数年特に大きな広がりをみせている.より詳細で大規模なデータ取得・解析が可能になったことで観察・実験・理論が相互に鍛え上げられ,群知能や群ロボティクスなど工学的に応用されていくという具合だ.そのように群れは様々な領域で取り扱われるが,これらに通底する問いは「いかにして局所的な相互作用によって大域的な振る舞いが生じるか」であるといわれる.そこでは各個体にとっての相互作用相手は同一規則に従う他個体のみであることがほとんどであり,通常,環境や群れそのものなどは他個体とは異なるカテゴリで扱われる.これらの簡単化は予測・制御を目的とする場合に扱いやすい手段だが,それと同時に「生物の予期せぬ振る舞い」が単に「部分の能力からは想像できない振る舞い」という意味になってしまう.前者を扱うには,実際の動物の群れにおいて,他個体-環境-群れそのものがどのような影響をもつのかを確かめる必要があるだろう.
ミナミコメツキガニMictyris guinotae は琉球列島に生息し,地形が時々刻々と変化する河口干潟で分裂融合を繰り返す大小様々な群れを形成する.サイズが10〜15mmと小さく,動きが遅く,二次元平面上で群れを形成するので,観察・実験において取り扱いやすい対象だ.このカニが2010年に新種報告され,行動・理論に関する多くの研究がなされるようになって5年が経った.まずこれまでの報告を紹介することで彼らの行動特徴を概観する.その後,他個体の在・不在(または可視・不可視)を操作し,個体の履歴性に焦点を当てることで,他個体-環境-群れの影響を検証する実験を紹介する.