| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T06-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
昨今の急速な都市化や生活様式の変化に伴い、我々が日常生活で自然と触れ合う機会は大きく減少している。実際に、日本やイギリス、アメリカを始めとした多くの先進諸国において、ここ数十年間で人々の自然体験が激減していることが報告されている。今から20年以上前、昆虫学者であるRobert M. Pyleは自身の著書『The Thunder Trees』において、こうした現代社会における自然体験の衰退を「経験の消失:The Extinction of Experience」と命名し、健康上の問題はもとより、環境保全上深刻な影響をもたらすことを指摘していた。それから四半世紀経った今、経験の消失は大きな社会問題として認識され始めてきたが、これまでこの現象はほとんど注目されてきておらず、原因やプロセスなど依然として多くの点で不明な部分が残されている。
本研究では、保全・景観生態、環境心理・行動、環境医学など多様な分野の研究報告をレビューし、経験の消失に関する知見の体系化を試みた。既存研究を調べた結果、経験の消失は公共の健康・福利を低下させるだけでなく、社会の自然環境に対する感情(親近感・興味)・態度(関心・保全意識)・行動(環境配慮行動)をも変化させることが明らかとなり、経験の消失には正のフィードバック効果が働くことが示唆された。こうした経験の消失に伴う負のスパイラルから脱却するためには、人口の大多数が居住する都市において人と自然の関係を再構築することが必須であり、今後の都市計画は重大な役割を担っている。本講演では、現在の都市計画・政策で実施されている経験の消失を防ぐための取り組みや今後の課題・展望についても述べたい。