| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T06-5 (Lecture in Symposium/Workshop)
都市において生態系・生物多様性の価値が社会に認知され、活用されるためには、都市住民が身近な自然環境と日常的に関わり、その価値を実感していること必要となる。こうした関わりに影響する要因のひとつが、地域の生態系の利用や管理に関する知識である地域生態知識(Local Ecological Knowledge)である。知識の具体的な例としては、保全すべき種や外来種に関する理解、自然資源の利用方法などがあげられる。日常的に自然との関わりを持たない都市部の住民の間では、こうした知識が一般に低い状態にあることが想定される。特に、農村から都市的環境へと変化してきた都市近郊地域では、かつて里山をはじめとする農村環境の保全管理に用いられてきた地域生態知識が喪失しつつあることが懸念される。一方で、都市住民は、直接的な自然体験などを通して、地域生態知識を獲得している可能性もあり、獲得された知識が生態系・生物多様性の新たな価値の認識と活用につながるフィードバックが発生していることも考えられる。
地域生態知識に着目した施策は都市の生物多様性保全のひとつの手段となりうるが、適切な方法論の不足から、知識とさまざまな社会経済・自然環境要素との関係はこれまで十分に明らかになっていなかった。こうした課題に対して、社会生態システムなどの学際的な考え方が広がるにつれて、社会科学の方法を応用した研究が増加してきており、地域生態知識や自然との関わりの計測手法の提案や実証研究での応用が行われつつある。本発表では、そうした近年の研究動向を整理した上で、東京近郊において樹林地管理に関わる都市住民の地域生態知識に関してこれまで取り組んできた実証研究の成果を報告し、今後の研究発展の方向性について議論する。