| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T10-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

サラワクにおけるランドスケープの変容は、狩猟を介した生態系サービスの供給にどのような変化をもたらしているのか

*鮫島弘光(京大東南研),Jason Hon(WWFマレーシア),加藤裕美(京大白眉)

ボルネオの哺乳類はオランウータンやウンピョウなど多くの絶滅危惧種を含んだ高い多様性を持つ一方、ヒゲイノシシやシカは地域住民の蛋白源として狩猟されてきた。しかし近年の景観構造や住民の生業の変化は、このような哺乳類と地域住民の関係に変化をもたらしつつある。この状況を理解するために、サラワク州ビンツル県において、上流の天然林択伐コンセッション内から下流のプランテーション寡占地域の集落周辺に4つの調査エリア(8 x 8 km)を選定、自動撮影カメラを2 km格子に設置し、種多様性と各種の撮影頻度を調査した。またビンツル県内の上流から下流までの34村を対象に生業・狩猟についてインタビュー調査を行った。

自動撮影カメラの結果から、ホエジカ、マレーグマ、中型食肉目など多くの種は上流の天然林地域でのみ生息密度が高い一方、ヒゲイノシシ、スイロク、マメジカなどの主要狩猟獣の多くは下流の集落周辺の二次林でも生息密度が高いことが明らかになった。このことから、天然林は生物多様性の維持のために代替不可能な機能を果たしている一方、集落周辺の二次林は現在でも生態系サービス供給機能を果たしえていることが明らかになった。

しかしながらインタビュー調査の結果からは、村におけるヒゲイノシシの狩猟頭数は、周辺の景観構造に加えて、住民の生業活動と強く相関していることが明らかになった。このことから、生態系サービスの供給・利用は、生態系自体の状況だけでなく、地域住民の社会・経済状況との相互関係に規定されることが示された。


日本生態学会