| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T12-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
2011年3月11日の東日本大震災に伴い,東京電力福島第一原子力発電所事故が発生した.当該原子力発電所から放出された放射性物質は生物や生態系に甚大な被害をもたらし,今なお,海や土壌,大気中に放射され続けている.それゆえ,我々は長期的に生態系や生物多様性への被害の実態評価やモニタリングを行う必要がある.我々はこれまで,「環境指標生物」として古くから注目されているコケ植物を材料に用いて,原発事故で放出された放射性物質による福島県下に生育するコケ植物の放射能汚染状況を調査してきた.福島県相双地域を中心とした福島県下30地点ならびに宮城県仙台市および伊具郡丸森町3地点から採取した蘚類ハイゴケHypnum plumaeformeについて,原発事故由来の放射性セシウム(134Csと137Cs)の蓄積量をゲルマニウム半導体検出器で分析した結果,すべての試料から134Csと137Csが検出された.調査地域のうち最も強く汚染された地域(飯舘村真野ダム)の放射性セシウム濃度は,134Csが57,000 ± 1,700 Bq/kg,137Csが122,000 ± 2,300 Bq/kgであった.本研究で検出されたハイゴケの放射性セシウム濃度と原発事故由来の汚染ワカメUndaria pinnatifidaの濃度(Kawai et al. 2014)を比較すると,137Cs濃度ではハイゴケはワカメと約16倍高かった.次に,地理情報システムを用いて,本研究で分析されたハイゴケに含まれる放射性セシウム濃度に,文部科学省が発表した土壌中の放射性セシウム濃度および空間線量率をそれぞれ投影したところ,両者の間に強い相関関係があると示唆するデータを得た.