| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T13-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
多剤耐性菌による疾病や新規な病害虫系統の出現による食料生産の不安定化など、ヒトの「生物としての存在」を脅かす事象が、21世紀になった今も頻発している。抗生物質や農薬の使用は、微生物の個体群や群集を制御する上で有効な手段の一つであるが、薬品の開発による対症療法的な人類の試みは、微生物との「軍拡競走」において取り残されてしまうことがしばしばある。こうした背景から、還元主義が極端に優占する現状から科学が脱皮し、複雑なシステム全体として微生物生態系を理解・制御する研究の枠組みが求められている。オミクス情報が蓄積され、ネットワーク理論などの情報学分野が発展してきた今、微生物学と生態学の融合は必然と言える。本発表では、上記の背景を解説するとともに、次世代シーケンサー解析等によって収集される膨大な微生物群集データを、生態学がどのように取り扱うことができるか考察する。サンプリング法やバイオインフォマティクス解析の流れを標準化することができれば、たとえ対象とする微生物系が異なっていても、種多様性にみられるパターンや、相互作用ネットワークの構造といった特徴を比較解析することができると期待される。そうした生態学的な比較解析をもとに、微生物の群集動態や群集集合過程における共通パターンを見出すとともに、対象系に固有の要因を抽出することもできるようになるであろう。微生物学で収集される膨大なデータが生態学に流入するようになれば、生態学自体にとっても実りは大きい。これまで微生物に関する群集生態学的な理解は、ごく一部の単純なモデル系に限定されるきらいがあった。マクロ生物を主な検証材料として発展してきた群集生態学の現代的枠組みが、微生物学との融合に耐え得るのか、それとも新たな理論的地平線が私たちの目の前に現れるのか? 挑戦は始まっている。