| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T13-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

腸内エコシステムの理解による新たな健康維持基盤技術の創成

福田真嗣(慶大・先端生命研)

地球環境上のあらゆる場所には微生物生態系が存在しているが、とりわけわれわれの腸管内には数百種類でおよそ100兆個にもおよぶ腸内細菌群(腸内細菌叢)が高密度に生息している。これら腸内細菌叢は細菌同士あるいは宿主の腸管細胞群と相互作用することで、複雑で洗練された腸内生態系、すなわち「腸内エコシステム」を形成している。腸内エコシステムは通常はこれらの同種あるいは異種細胞間の絶妙なバランスの元に恒常性を維持しているが、過度の遺伝的要因あるいは外環境由来の要因によりその恒常性が破綻してしまうと、最終的には粘膜免疫系や神経系、内分泌系の過剰変動に起因すると考えられる炎症性腸疾患や大腸癌などの腸そのものの疾患に加えて、自己免疫疾患や代謝疾患、細菌感染症といった全身性の疾患に繋がることが報告されている。従って、腸内エコシステムの破綻に起因するこれらの疾患を正しく理解し制御するためには、その構成要素のひとつである腸内細菌叢の機能やそれらと腸管細胞群とのクロストークについて統合的な観点からアプローチする必要がある。われわれはこれまでに、腸内細菌叢の遺伝子地図と代謝動態に着目したメタボロゲノミクスを基盤とする統合オミクス解析技術を適用し、腸内細菌叢から産生される代謝産物の一つである酢酸や酪産などの短鎖脂肪酸が、腸管上皮細胞のバリア機能を高めることで腸管感染症を予防することや、免疫応答を抑制する制御性T細胞の分化を促すことで、大腸炎を抑制できることを明らかにした。本研究成果は単に腸内エコシステムの理解に繋がるだけでなく、この複雑で洗練された複合微生物叢調和システムから学び、その法則や概念を適用することで、腸内エコシステムの人為的修飾による新たな健康維持、疾患治療・予防方法の創出に繋がると考えている。


日本生態学会