| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T14-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

気候変動と土地利用変化がニホンジカの分布拡大に及ぼす影響

大橋春香(森林総研),小南裕志(森林総研),比嘉基紀(高知大),小出大(森林総研)

土地利用の変化と気候変動は野生動物の分布変化をもたらす重要な駆動因である。本研究では、日本で近年急激に分布拡大しているニホンジカ(以下シカ)の25年間での分布変化に及ぼした2つの駆動因の相対的な重要度を評価することを第一の目的とした。さらに、土地利用と気候が変化した場合の将来のシカの分布を予測することを第二の目的とした。

環境省自然環境保全基礎調査のデータを用いて、1978年のシカ在メッシュで2003年にシカが在となる確率(存続確率)と、1978年のシカ不在メッシュで2003年にシカが在となる確率(移入確率)を、距離の二乗で重み付けを行った半径60km以内の1978年のシカ在メッシュ数と、1978年・2003年の土地利用および気候から予測されるハビタット好適性、両者の交互作用により説明するモデルを構築した。さらに、人口減少に伴う土地管理放棄を想定した10種類の土地利用シナリオと5種類の気候シナリオを用いて将来のシカ分布を予測した。

シカのハビタット好適性には、森林面積と積雪日数、エゾシカとそれ以外の亜種の違いが重要な影響を及ぼしていた。25年間でのシカのハビタット好適性の変化に及ぼした土地利用変化と気候変化の影響の重要度は地域により異なっていた。北日本および高標高域では、気候変化による影響が大きかった。一方、九州や四国では土地利用の変化による影響が大きかった。将来予測の結果、2050年代まではシナリオ間の差が小さかったが、2070年代以降は土地利用変化のみを考慮したシナリオよりも、気候変化を考慮したシナリオでシカの分布拡大がより促進されていた。シカの分布拡大を抑制するには、短~中期的には現在のシカ分布域に近接した地域における捕獲圧の強化が重要であるが、長期的には土地管理の継続や、多雪地における捕獲圧の強化も重要になると考えられた。


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