| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


企画集会 T14-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

温暖化に伴う高山植生の分布変化がライチョウの分布に及ぼす影響を推定する

津山幾太郎(森林総研),堀田昌伸(長野県環境保全研),中尾勝洋(森林総研),尾関雅章(長野県環境保全研)

日本の高山生態系を象徴する種であり,絶滅危惧種でもあるライチョウについて,生息地域のコアエリアである北アルプス中部を対象に,温暖化に伴う高山植生の分布変化が同種の潜在生息域に与える影響を評価した.

ライチョウの潜在生息域は,ライチョウの縄張りを高山植物群落の面積率と尾根からの距離で推定するモデル(モデルA)と,高山植物群落の面積率を気候(モデルB1)と地形(モデルB2)から推定するモデルを統合して推定した.高山植物群落には,ライチョウの生息環境として重要と考えられるハイマツ群落,雪田群落,風衝地群落を,環境省提供の1:25000植生図から抽出して用いた.温暖化後(2081-2100年)のライチョウの潜在生息域は,24個の将来気候シナリオにおける高山植物群落の面積率をモデルB2から推定し,モデルAに当てはめて推定した.解析の空間解像度は,ライチョウの縄張りの大きさに基づいて300mとした.

全てのモデルで,良好な精度を得ることができた.3つの高山植物群落ともライチョウの生息条件として重要で,面積率が低いとネガティブに作用することが示唆された.高山植物群落の面積率には,マクロスケールでの気候要因と,ミクロスケールでの地形要因の両要因が重要であることが示唆された.北アルプス中部におけるライチョウの潜在生息域は,温暖化に伴う高山植物群落の面積率の減少により,気候シナリオの不確実性にかかわらず,93.2%が消滅すると予測された.今後,ライチョウの保全を進める上で,全国スケールにおける潜在生息域の変化予測を行う必要があると考えられる.


日本生態学会