| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
企画集会 T15-1 (Lecture in Symposium/Workshop)
イネシンガレセンチュウAphelenchoides besseyi Christie(以下,線虫)はイネの外部寄生者である。この線虫は種子伝搬性であり,線虫はイネの花に入り,急速に増殖する。種子の乾燥とともに,無水状態で休眠する。種子は水浸漬後,育苗箱に播種され,育った苗が水田に移植される。線虫は水浸漬後,速やかに種子から游出する(田村・気賀沢,1957)。しかしながら,品種ヒノヒカリの場合,水浸漬中に線虫の游出を観察していない。広島県では稚苗移植導入後に線虫発生面積は増加し,1998年には広島県南部のヒノヒカリで多発圃場を多数認めた。この要因を明らかにするため,ヒノヒカリで線虫の游出を調査し,浸種から育苗までの過程と游出の関係を明らかにした。前年にイネの移植時に線虫を接種し,収穫した線虫感染種子を供試した。種子を1個ずつ入れたピペットチップを,水を入れた菅瓶に浸漬した。毎日,チップを取り出して,水を入れた新しい管瓶に移し変えた。チップを取り出した管ビン内の水中の線虫を計数した。24日間調査し,最終日には田村・気賀沢(1958)に従い,シラキュース皿内に水を入れ,イネをピンセットで分解し,残存線虫として計数した。その結果,正常に発芽した種子の割合は90%であった。発芽は水浸漬2日後から始まり,3日後には90%が発芽した。発根は3日後から始まり,8日後まで発根した。正常に発根した種子は90%であった。線虫の游出は5日後から始まり,19日後まで続いた。線虫の存在する種子の約7割から線虫が游出した。游出した線虫数は全線虫数の約24%であった 。以上のことから,ヒノヒカリの種子からの線虫の游出は種子の発根2日後から始まり,約2週間続く。イネ栽培の浸種~育苗の作業時の過程で,播種された育苗箱で線虫の游出が始まり,播種された育苗箱で発根後から感染苗の増加が起こると考えられた。