| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G3-30 (Oral presentation)

水田に設置された小水路「ひよせ」の果たす役割

星野 滋(広島総研農技セ)

水稲栽培の慣行技術が水生昆虫等の個体数に影響することがある。特に,水生昆虫は水管理の影響が大きい。その影響を小さくする方法として,水田への小水路の設置が推奨されている。広島県尾道市の小水路「ひよせ」が設置された農家水田において,水生生物を調査した。その結果,「ひよせ」には,水田の中干し期間中でもトンボ類幼虫やカエル類幼生が生息して,「ひよせ」の設置により水生昆虫の絶滅を防ぐことができると考えられた。

そこで,広島県立総合技術研究所農業技術センター内に「ひよせ」を設置した水田と無設置水田を設け,「ひよせ」が水生昆虫等に与える影響を調査した。その結果,水田内に水が完全になくなった中干しの期間中でも,「ひよせ」には,水生昆虫(コミズムシ類,ヒメガムシ,コオイムシ,トンボ類幼虫)が生息し,中干し終了後には,「ひよせ」設置水田内でもコオイムシやヤゴなどが観察された。一方,対照水田ではコオイムシは全く観察されず,ヒメガムシやヤゴは少なかった。

イネ収穫期の水田の乾燥時(水がない状態)でも,「ひよせ」には水生昆虫(コミズムシ類,ヒメガムシ,コオイムシ,トンボ類幼虫)やカエル類幼生は観察された。しかし,稲刈り以降には,コオイムシやヒメガムシだけでなく,ウシガエルの幼生および成体も観察され,結果的には特定外来生物を保護する結果となった。このことから,特定外来生物が生息する地域の水田での「ひよせ」の設置は,水生昆虫保護と外来生物駆逐のトレードオフの関係を招く危険性があると考えられた。


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