| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G3-34 (Oral presentation)

東南アジア熱帯林の多様性指標としての新種比率 〜クスノキ科シロダモ属の事例〜

*満行知花,田金秀一郎,遠山弘法,間瀬慶子,矢原徹一 (九大・理・生態)

熱帯林が急速に消失している東南アジアの植物多様性を評価するために、ベトナム、カンボジア、タイ、マレーシア、インドネシアの23地域108地点において100m×5m調査区(1地点あたり1-20)を設置し、維管束植物全種を記録した。本研究ではこのうちクスノキ科シロダモ属を対象に、形態・DNA配列・分布情報を総合した種判別を行い、種数と新種比率を評価した。まず、形態・分布情報から48 OTU(暫定種)を識別し、これらのITS領域の配列を決定した。次に、得られた配列702bpについて近隣結合法によって系統樹を作成した。

その結果、花や果実がなくても形態的に「別種」と判断された種は系統樹でも系統的に離れて位置し、シロダモ属の種はITS領域での種判別が非常に有効であることが明らかとなった。そのため、以下の基準で同種または別種と判定した。①同じ地域で採集され、形態が異なるOTUが、系統樹で姉妹関係になければ別種。②塩基配列では姉妹関係にあるが、地理的に離れた地域で採集され、形態的にも明確に異なる場合は別種。③塩基配列には違いがあるが姉妹関係にあり、分布も形態も近いものは同種。この基準で判定された種についてタイプ標本と照合して同定した結果、既知種が11種、新種が22種であった。種数は中央ベトナムで最大(計8種、4新種)、南ベトナムで次点(計7種、4新種)だった。33種中24種については、花や実が採集されていない。

東南アジアの樹木では、花・実を毎年つけない種が多いために分類学的記載が遅れている。しかし本研究の方法では、花や実が採集されていない種についても新種の判定が可能である。同様の方法で他属の種判定を行うことで、少なくともクスノキ科では種数が約3倍に増える可能性がある。今後は生物多様性の評価、および新種記載にこの方法を積極的に活用していきたい。


日本生態学会