| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) G3-36 (Oral presentation)

遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)の法的検討

*神山 智美 / 富山大学経済学部

生物多様性条約(CBD:1993年発効)は、「遺伝資源の利用から生じた利益の公正で衡平な配分(ABS:Access to genetic resources and Benefit Sharing)」をその目的の一つに掲げている(1条)。ABSとは、遺伝資源を持ち出す際のルールと、持ち出した遺伝資源を基にして生じた利益を公正かつ衡平に配分するための仕組みについての議論である。生物多様性条約15条には、遺伝資源に対しては資源国が主権的権利を持つこと、提供国と利用者間でPIC(事前同意)が必要であること、およびMAT(相互合意条件)で公正・衡平に利益分配することが定められた。しかし、当時は実際のルールは存在しておらず、その後、拘束力のないボン・ガイドラインの制定(2002年採択)、および拘束力のある名古屋議定書(2014年10月発効:日本は未だ批准していない)が締結された。名古屋議定書の議長国である日本にはその批准が求められている。そのためには名古屋議定書に基づく国内法(国内措置)の制定が必須となる。しかしながら、各界および関係者間で調整すべき課題が多く、また諸外国(特に中国)の動きも定まらず、日本は国内法(国内措置)の制定には慎重な姿勢を示している。その理由には、締約国の国内法に従いPICやMATを適用する仕組みは画期的であるとともに、日本企業および研究者等が法令違反になるおそれから萎縮してしまう可能性にも配慮せねばならないこと、および名古屋議定書等が妥協の産物であり各国によって解釈が異なること等が挙げられる。本報告者は、富山という「くすり」で有名な地域、すなわち遺伝資源を用いる産業および研究も盛んな地域に勤務している。よって、以上のABSに関する状況を概観し、特に漢方生薬製剤領域ではどのような議論および留意点があるのかを、管見の限りではあるが検討し試論する。


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