| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(口頭発表) J2-17 (Oral presentation)

3栄養段階の生物群集モデルに基づく環境汚染の生態リスク評価手法

田中嘉成(国環研・環境リスク)

化学物質の生態影響を限られた種で取得された毒性データから生態学的に妥当な方法で評価する手法が求められている。そのため生態リスク評価モデル(A-TERAM)を開発した。A-TERAMの主な目的と特徴は、化学物質の生態影響を個体群レベルと種間相互作用を介する群集レベルの効果によって評価することにより、評価の生態学的な意義を明確にすること、藻類・ミジンコ・魚類(メダカ)から得られた標準的スクリーニングデータのみからでも高度な評価手法を可能にすること、曝露評価、蓄積性評価、毒性評価にまたがる異分野間の知見を数理モデルで統合化することである。A-TERAMは、捕食・被食関係によって連結される3栄養段階、藻類-ミジンコ類-魚の個体密度の動態を、日単位でシミュレーションし、生態リスクを最上位種の魚個体群の年あたり増加率として評価する。種間相互作用を捕食関数で近似し、下位種の減少が上位種に波及する間接効果を把握できるようにした。化学物質の生態影響としてはOECDテストガイドラインで定められている生態毒性情報をほぼ網羅的に利用できる。リスク評価手法としての一般性を持たせるため、魚類の急性致死、ミジンコの急性遊泳阻害、藻類増殖阻害の3種のデータだけからでもリスク評価ができるよう急性-慢性外挿法を採用した。

A-TERAMによる生態リスク評価の例として、4種農薬に対する算定結果を報告する。これらの化学物質はミジンコと藻類に対する強い毒性により種間相互作用を介して魚個体群に影響を与える。従来の予測無影響濃度(PNEC)と、A-TERAMが10%の個体群増加率減少を予測するpop/com-EC10を多くの化学物質で比較すると、化学物質の各生物種への作用の違いによって、これらの値の相対値が大きく異なり、生態学的な要素を考慮することによりリスク評価結果が大きな影響を受けることが示唆された。


日本生態学会