| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-119 (Poster presentation)
訪花者が花筒の基部などに穴をあけ蜜を吸う盗蜜行動を行う場合がある。盗蜜者は植物にダメージを与える上に、送粉者の行動に影響を与えることで、植物の適応度には負の影響を与えると考えられてきた。しかし、実際には盗蜜者が送粉を行う場合も知られており、盗蜜の影響は盗蜜者と送粉者そして植物の少なくとも3者の複雑な相互関係で変化することが明らかになってきた。そこで、本研究では多年生草本で自家和合性のウツボグサについて、盗蜜者がウツボグサの雌適応度におよぼす影響の評価を柱頭付着花粉数の比較と訪花観察によって試みた。
乗鞍岳の標高2000m付近でウツボグサの花期の最盛期に訪花観察を行った結果、マルハナバチ類がウツボグサの小花に訪花した293回のうち229回はヒメマルハナバチによる盗蜜、16回はオオマルハナバチによる盗蜜、4回はヒメマルハナバチによる正当訪花、44回はナガマルハナバチによる正当訪花であった。
また、盗蜜を受けた小花の比率は開花期間中に変化し花期の最盛期に最も高く(平均約40%)、花期の終わりには低く(平均10%以下)となった。
柱頭付着花粉数をA:自然訪花区(盗蜜痕あり)、B:自然訪花区(盗蜜痕なし)の間で比較したところ、処理区間で有意差は認められなかった。
自然訪花状態(A+B)での結実率は65%であった一方で、無訪花処理でも結実率は20%あった。
これらの結果から、ウツボグサでは自動自家受粉がおこっていること、しかしその時の結実率は低いことが明らかになった。さらに、A区とB区で柱頭付着花粉数に差がなかったことから、盗蜜のウツボグサの雌適応度におよぼす影響は限定的であることが示唆された。今後、盗蜜頻度の異なる場所ごとの結実率や、盗蜜の有無による結実率、さらには開花時期ごとの結実率について調査を進める必要がある。