| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-126 (Poster presentation)

(仮)寄主植物ウマノスズクサを共有する2種のチョウの共存機構

*橋本洸哉, 大串隆之 (京大生態研)

植食性昆虫は、寄主植物を共有する他の植食者の資源利用可能性を変化させることで、相互に影響を与えあう。植食者間の相互作用に影響する要因の特定は、植食者の個体群・群集動態といった高次の現象を理解するためにも重要である。近年、植食者による被食が植物の質を変化させ、植食者間の相互作用に影響することがわかってきた。しかし、植食者間の相互作用は被食による植物の量の変化からも影響を受けるはずである。我々は、寄主植物(ウマノスズクサ)を共有するスペシャリスト植食者(ホソオチョウとジャコウアゲハ)を材料に、両種の摂食量の違いが(1)食害後の寄主植物の現存量、(2)自種の幼虫密度が他種の幼虫の生存率に与える効果、にどのように影響するのか調べた。ジャコウ幼虫は発育完了までにホソオ幼虫の約5倍の餌量を摂食する (鈴木 1998)。

両種の幼虫による食害はその後の植物の成長量に影響しなかった。その結果、食害後の植物の現存量は、ジャコウ食害の方がホソオ食害に比べて少なくなった。また、野外では事前のホソオ幼虫の密度が植物の現存量に与える影響は確認できなかった。したがって、ジャコウによる食害はその後に植物を利用する植食者に負の影響を与えるが、ホソオによる食害の影響はジャコウに比べて小さいと推測された。ところが、両種幼虫を同時に飼育したところ、ジャコウの生存率はホソオを増やすと下がったが、ホソオの生存率はジャコウが増えても下がらなかった。これは、ホソオがジャコウよりも資源の要求量が少ないために、ホソオに対する資源量の減少による影響が小さかったからと考えられる。この研究は、植食者の生存過程においては、寄主植物の現存量だけでなく、植食者の資源要求量も考慮する必要があることを示唆している。


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