| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-147 (Poster presentation)

堅果の防衛シグナル処理はどのように実生の運命を変えるか?

*芳賀真帆(北大・環境科学院), 高林純示(京大・生態研), 内海俊介(北大・FSC)

植物は動物や病原菌による攻撃に対抗して多様な防衛機構を発達させている。恒常防衛に加えて、ダメージを受けたことに応答して防衛を発現させる誘導防衛という機構がよく知られている。この食害誘導防衛の発現には、ジャスモン酸などの植物シグナル物質が介在し、その働きによって防衛物質の生産などに関わる生理回路が活性化され、誘導防衛が発現する。また、シグナル物質を人為的に植物体に塗布することによって植物の抵抗性を高められることも知られる。種子・実生ステージはしばしば動物や病原菌による攻撃を受けやすく、植物の生残と更新に直結する大きなダメージを受ける。にもかかわらず、種子の段階でのシグナル物質の応用が、その生存と後の実生の運命に与える影響についてはほとんど明らかにされていない。

本研究では、ミズナラの堅果をシグナル物質に浸してから野外に播種し、堅果と発芽した実生の生存や成長そして昆虫からのダメージに与える影響を明らかにすることを目的として実験を行った。シグナル処理にはジャスモン酸メチルとサリチル酸メチルを用いた。堅果は4個体の母樹から収集し、計2800個の堅果を播種した。発芽後には一部の個体に網掛けを施し、食害環境の有無によってシグナルの長期的な波及効果に違いがあるかを調べた。

まず種子ステージにおいて動物による持ち去りがあったが、持ち去り率にシグナル・母樹の効果・交互作用が有意だった。また、堅果の死亡率にも有意な交互作用が検出された。さらに、発芽実生の成長には、シグナル・母樹・網掛けの交互作用が有意であった。以上から、シグナル処理は堅果の生残とその後の成長と食害に長く影響すること、しかしその影響は母樹によって異なることが明らかになった。 


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