| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-151 (Poster presentation)
植食性昆虫の他に類を見ない多様性は、植食性昆虫の進化において繰り返される食性の変化に起因すると考えられている。食性の変化は、異なる寄主植物を利用する個体の間に生殖隔離をもたらすことで種分化を促進する可能性がある。しかしながら、近年では食性の変化を伴わずに多様化が進行した植食性昆虫の例も発表されており、食性の変化が植食性昆虫の種分化や多様化においてどれほど重要であるかの検証は未だ不十分である。
日本にはカエデ属植物が28 種生育しており、それを利用するハマキホソガ属蛾類の多様化が顕著である。そこで本研究は、カエデ属を利用するハマキホソガを対象として、食性の変化がどれほど種分化過程において重要であったかを明らかにすることを目的とした。カエデ属植物を利用するハマキホソガを日本全国73地点、日本産カエデ属20種から採集した。得られたサンプルのうち計254個体についてミトコンドリアCOI遺伝子を用いて種を識別したところ、3種の未記載種を含む14種が得られた。COI遺伝子および核のArgK、CAD、EF1α遺伝子を用いたハマキホソガ属全体の系統解析を行ったところ、カエデ属を利用するハマキホソガは互いに近縁であり、主にカエデ属植物上で多様化を遂げたことが分かった。採集から得られたハマキホソガの食草及び系統情報をもとに、種分化過程における食性の変化の重要性について評価を行った。
解析の結果、食草利用の違いは近縁種ほど小さく、ランダムな場合と比較して食性の変化は有意にハマキホソガの系統樹上の根元で多く起きていた。このことは多くの種分化イベントにおいて食性の変化は重要でなく、食性はある程度系統に制約されることを示しており、今後の植物-植食性昆虫の研究、特に植食性昆虫の食草への特殊化の意味を理解する上で重要な示唆を与えるだろう。