| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-154 (Poster presentation)

対捕食者適応による昆虫の外部形態の進化:捕食パターンの違いによる影響の検証

*篠原忠,高見泰興(神戸大・人間発達環境)

昆虫は全生物種の過半数を占め,その形態の多様化要因の解明は,生物の形態進化機構を理解する上で重要である.形態の進化的意義を明らかにするために,その機能的側面がさまざまな昆虫で研究されてきた.形態進化を引き起こす原因の一つに対捕食者適応があり,昆虫でも捕食を回避する機能を持つ外部形態が知られている.しかし,防衛形質が近縁種間で多様化する現象が認められるなど,特定の捕食者を想定するだけでは説明できないケースがある.カメノコハムシ亜科は棘や扁平縁(体の周囲に張り出した縁)といった多様な外部形態を持つ種を含む分類群である.これらの形態は捕食者に対する防衛と考えられているが,近縁種間で異なる防衛形質が生じるメカニズムはよくわかっていない.

本研究では,異なる捕食パターンを持つ捕食者への適応が近縁種間の防衛形質の多様化をもたらすとの仮説のもと,ハムシの異なる形態がどの捕食者に対して有効であるかを検証した.捕食者は突き刺し型・噛み付き型・丸呑み型・狩猟型の4タイプを想定した.ハムシは棘を持つ種と扁平縁を持つ種でそれぞれ形態を操作し,棘あり・棘なし・扁平縁あり・扁平縁なしの4タイプを用意した.これらを突き刺し型,噛み付き型,丸呑み型の各捕食者に与えたところ,棘の有無に防衛効果の有意差は見られなかったが,扁平縁は噛み付き型捕食者に対して防衛効果が認められた.また,野外で狩猟型である狩蜂の獲物調査を行った結果,扁平縁を持つ大型種は狩られにくい傾向があり,扁平縁のような体サイズの大型化につながる形態は,利用できる獲物サイズに制限のある狩蜂への防衛としても機能すると考えられる.扁平縁の進化をもたらす要因は見つかったが,棘では明らかにできず,他の捕食者に対する防衛の可能性も考えられる.


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