| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-158 (Poster presentation)
昆虫の発育に影響する最も重要な要因の1つが、外部環境条件である。宿主の体内で発育を行なう内部寄生蜂にとって、宿主の体は発育に必要な空間と栄養を供給する一方、内部寄生蜂の発育を抑制する免疫機構も備えているため、宿主の体内環境は内部寄生蜂の発育に複雑な影響を及ぼす事が予想される。実際に、ショウジョウバエの内部寄生蜂であるAsobara japonicaは、異なる種の宿主に寄生すると、形態形質が可塑的に変化する事から、宿主の体内環境によって発育が制御される可能性が示唆されている。しかし、寄生蜂の発育と宿主の体内環境を測定することは困難であるため、A. japonicaの発育に影響する体内環境要因は未解明である。
本研究では、内部寄生蜂の成虫の形態変異と宿主の遺伝変異の関係性を調べる事で、間接的に、内部寄生蜂の発育に影響する宿主の体内環境プロファイリングを行った。内部寄生蜂としてはA. japonicaを用い、前翅の形・大きさを発育の指標として用いた。宿主としては、キイロショウジョウバエの全ゲノム解読済み系統である、DGRP系統を140系統用い、ゲノムワイド関連解析によって、寄生蜂の表現型と宿主の一塩基多型(SNP)の関連解析を行った。翅の輪郭形状については、楕円フーリエ記述子を用いて数量化し、主成分分析によって、第1、第2主成分を形態スコアをとして算出した。翅の大きさについては翅面積を使用した。ゲノムワイド関連解析の結果、第2主成分スコアと関連するSNPは、宿主の細胞分化や体構造の形成に関与する遺伝子に多く存在していた。本研究から、内部寄生蜂の発育に宿主の体内環境は影響を与える可能性があり、その体内環境とは宿主自身の形態形成に関与するものであると示唆された。