| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-225 (Poster presentation)
生息地の減少が急激に生じると、生物の個体群は孤立・矮小化した生息地に残存するのみとなり、いずれは個体群を構成するすべての個体が死亡して絶滅にいたる。しかし、個体の寿命が十分長く、数個体が生存しているような状況では、種の絶滅はすぐには起こらず、絶滅の遅れと呼ばれる現象が生じることがある。一方、個体群が複数の局所個体群の集合として存在し、かつ局所個体群間で遺伝的交流が行われるメタ個体群構造をとる場合、孤立した局所個体群個々の長期的な維持が困難になったとしても、他の局所個体群からの移動分散個体による救済効果が個体群の絶滅を遅らせる場合がありえる。我々は、生息地間を個体が移動分散することで救済効果が期待できる生物として、イネ科草本が卓越する草地に生息するジャノメチョウを用い、メタ個体群レベルでの絶滅の遅れのメカニズムを解明することを試みた。
調査地は、千葉県北部の柏市から印西市に点在する89パッチの草地からなり、このパッチをジャノメチョウの単一なメタ個体群を構成する局所個体群とみなした。そして、ジャノメチョウの分布に影響する環境要因としてパッチ面積、ジャノメチョウの在パッチの連結性、草地景観の連結性、パッチの質を用い、GLMMで解析した。パッチ面積と草地景観の連結性は1980年代と2014年のデータを整備した。
その結果、ジャノメチョウの分布には現代の在パッチ間の連結性と過去のパッチ面積が強く影響していたが、パッチの質や過去の草地景観の連結性は大きな影響を持たないことが明らかとなった。すなわち、ジャノメチョウのメタ個体群では、局所個体群の孤立化が進む中でも、移動分散による救済効果が絶滅の遅れを担保していることが示唆された。