| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-227 (Poster presentation)
一般に、頻度依存選択により性比(オス率)は0.5付近で安定するが、ごく少数の個体によって創設された若い個体群では、局所配偶競争により性比がメスに偏ることが予測されている(ヘイスタックモデル)。南米原産の淡水巻貝スクミリンゴガイPomacea canaliculataは小さな池や水田などで局所個体群を形成しており、性比変動を示すことが知られている。本種の生態がヘイスタックモデルの仮定に合致していることから、本種の性比に対する近親交配の影響を、交配実験によって調べた。野外で採集した個体のF1世代から近親交配系(全きょうだいであるオスとメスを交配させる)と異系交配系(血縁のないオスとメスを交配させる)を各30家系程度作出し、F3世代までの性比の変化を調べた。F2とF3世代の近親交配系の性比は異系交配系に比べて有意にメスに偏っていた。さらに、F3世代とその祖先となった個体に限定して性比の変化をみても、性比は近親交配系においてのみ、後の世代でメスに偏るという傾向が観察された。ところが、このような性比の偏りは胚や飼育時の死亡率の違いだけでは説明できなかった。近親交配系におけるメスに偏った性比の出現は、ヘイスタックモデルの予測を支持し、本種の性比変動が適応的意義を持つことを示唆する。また、スクミリンゴガイでは少数の性決定遺伝子の組み合わせで性が決まるとされている。近親交配でメスが多くなったことから、複数の性決定遺伝子座におけるホモ接合度が高まるとメスになるといった性決定様式を本種は持っているのかもしれない。さらに、メスに偏った性比は侵入直後の個体数の増加を促し、本種の高い侵略性に寄与している可能性もある。