| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-228 (Poster presentation)

負け組の性転換:魚類における双方向性転換の数理モデル

*澤田紘太(総研大・先導研), 山口幸(神奈川大・工), 巌佐庸(九州大・理)

社会性の動物にはしばしば繁殖の偏りがみられ、劣位個体は高い繁殖成功を得られない。性転換する動物は、劣位のときには繁殖の偏りが弱い性になることで、次善の策としてある程度の繁殖成功を得ることができる。魚類の双方向性転換、すなわち基本的には雌性先熟である魚類において、雄がより優位な雄と出会ったときに雌に戻る現象も、劣位状況に対応する一つの戦術として捉えることができる。しかし一妻多夫の種では、もし劣位雄が他の場所に移動して雄としての繁殖を続けることができれば、高い繁殖成功を得られるはずである。本研究では、雄が移動のような他の戦術ではなく雌への性転換を選ぶべき状況を特定するために、数理モデルを用いて最適意思決定戦略の解析を行った。その結果、現実的な仮定のもとでは、性転換は小さい雄にとってより有利になりやすいことがわかった。さらに移動リスクが高く、個体密度が低いほど、より大きな個体も性転換をするようになると予測された。この結果は先行研究で提唱されている仮説と一致し、魚類における双方向性転換の観察例をよく説明することができる。しかし移動リスクが常に高いと、あるいは密度が常に低いと、双方向性転換の前提となる条件が満たされなくなる。そのため、環境条件の時間的・空間的な変動が重要であると考えられる。


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