| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-229 (Poster presentation)
カクレガニ科Pinnotheridae(十脚目)は様々な海産無脊椎動物に寄生し,二枚貝など一部の宿主では寄生により軟体部重量が減少することが報告されている。このため,軟体部重量が雄から雌への性転換のタイミングに影響することが知られているカキ類においては,寄生の有無が宿主の性に影響する可能性がある。そこで本研究では,日本の岩礁海岸に普通に見られるSaccostrea属のカキ類2種(中型のオハグロガキS. mordax,小型のケガキS. kegaki)とその寄生者であるクロピンノPinnotheres boninensisについて,寄生が宿主の軟体部重量,性成熟,性(ある時点での雌雄)に与える影響について調べた。採集は,カキ類の繁殖期である6-10月に和歌山県白浜町で行った。採集したカキ類を解剖してカニの寄生の有無を確認し,カキの軟体部重量を測定して検鏡により性判別を行った。その結果,クロピンノの寄生率は,オハグロガキ(5.1%)よりもケガキ(34.5%)で高く,殻長と寄生の有無を説明変数に含めたロジスティック回帰分析の結果,ケガキでは殻長の大きな個体への寄生率が高かった。しかし殻長の影響を勘案しても,オハグロガキとケガキの軟体部重量は,クロピンノに寄生された個体のほうが寄生されていない個体よりも軽かった。また,両種とも,寄生個体は非寄生個体よりも性成熟個体の割合が少なかった。さらに,性については,オハグロガキでは殻長の増加に伴って雄の割合が減少し,寄生個体には雄が多かった。一方,ケガキでは殻長のみが性に影響し,寄生による性の偏りは見られなかった。以上より,クロピンノはカキ類の軟体部重量を減少させて繁殖に悪影響を与えるが,性への影響は宿主種間で異なると考えられた。ケガキでは大型個体への寄生率が高いため,寄生による軟体部減少の影響が性転換のタイミングの変化に及んでいないのかも知れない。