| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-230 (Poster presentation)
複数オス交尾頻度を知ることは、交尾後性淘汰の程度などを議論する上で必須の知見である。分子生物学的手法の発達により、マルチプルパタニティ(一腹の子の父親が複数いること)が多様な種で観察されると、種間および種内の比較にマルチプルパタニティ頻度が用いられ、複数オス交尾頻度と関連付けて議論されるようになった。しかし、複数オスと交尾したメス全てがマルチプルパタニティになるわけではないため、マルチプルパタニティ頻度は複数オス交尾頻度を過小に評価していることになる。その過小評価の度合いは、オス間の受精確率の偏りと一腹産子数によって大きく影響されるため、特に一腹産子数の小さい哺乳類では過小評価の影響は深刻である。複数オス交尾頻度推定を試みたこれまでの研究では、受精確率の偏りは野外での測定が難しいことから、任意の値を網羅的に与えるにとどまっており、推定値の幅も大きく、手法の改善が求められている。本研究では、野外データを使用したシミュレーションを用いて、エゾヤチネズミの受精確率の偏りと複数オス交尾頻度を推定した。受精確率の偏りは、マルチプルパタニティ腹における父性の偏り(一腹の子のうち、多く子を残せたオスの子の割合)から推定し、複数オス交尾頻度の推定値に及ぼす影響を検討した。その結果、マルチプルパタニティの実測頻度は0.231(50腹 / 216腹)で、受精確率の推定値を考慮しない場合、複数オス交尾頻度の推定値は、0.269〜1であった。受精確率の推定値を考慮すると複数オス交尾頻度の推定値は0.273〜0.523となり、推定幅を小さくすることができた。このことから複数オス交尾頻度の推定法の改善には受精確率の偏りの推定は効果的であり、今後のマルチプルパタニティの調査では父性の偏りのデータ採取も重要であると考えられる。