| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-238 (Poster presentation)
ニホンジカ(Cervus nippon; 以下、シカ )の過剰な採食は森林の構成に大きく影響を与える。剥皮による植物の枯死や下層植生の衰退や単純化は森林構成を通してそこに生息するその他の哺乳類にも影響を与えると考えられる。そこで本研究では環境省が行っているモニタリングサイト1000中・大型哺乳類調査の撮影個体数を使用し、シカの撮影されたサイトと未確認のサイトで、季節自己回帰成和分移動平均モデルを用いてイノシシ(Sus scrofa)やネズミ類の個体数推移を予測した。
その結果、シカが確認されたサイトでは、シカは低密度で安定した個体数推移、または緩やかな増加傾向が予測された。一方、イノシシやネズミ類の個体数には増加傾向だった。シカ未確認のサイトではイノシシやネズミ類は減少傾向であった。
シカが確認されたサイトではイノシシやネズミ類は下層植生を休息場や避難所として利用することから(小寺ほか 2001, 田中ほか 2006)、シカの採食による植生の衰退によって減少傾向を示すことが予想された。しかし今回シカが確認されたサイトは、シカが低密度であり、植生の衰退レベルも低いことが報告されており、下層植生の衰退による影響を大きく受けなかったため増加傾向を示したと考えられる。シカ未確認サイトでは、各サイトの鳥獣保護管理計画の狩猟状況や、シカの利用が全く生息しない状況ではシカの嗜好性植物による極端な優占から多様度を低下させる(合田・高柳 2008)ことから、他の哺乳類は減少傾向を示したと考えられた。本研究をまとめると、シカが低密度に確認されているサイトでは、シカによる低密度の採食が攪乱作用となり、植物の多様性を高め、他の哺乳類の増加にも繋がる一方で、シカの利用が全くないサイトでは、植生の多様性は低く、結果として他の哺乳類の生息場所としても適さないのではないかと推測された。