| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-245 (Poster presentation)

止水性両生類における卵死亡率の個体群間変異と地理情報・遺伝学情報を用いた要因の解析

*岡宮久規, 志賀優, 菅原弘貴, 草野保(首都大・生命)

空間的要因と選択圧の強度や集団遺伝構造との関係を明らかにすることは個体群動態の把握や分布の規定要因の解明、或いは保全の実践において重要である。両生類の野外集団においては適応度の指標として古くから卵死亡率が調べられてきたが、集団間での変異幅や変異をもたらす要因については不明な点が多い。本研究では、日本の止水性両生類の中で典型的な生活史を有するトウキョウサンショウウオHynobius tokyoensisとヤマアカガエルRana ornativentrisの2種を対象に東京都と埼玉県の40集団において卵死亡率の調査を行った。その結果、卵死亡率には0~65%と大きな集団間変異が認められ、その変異幅は両種でよく似た傾向を示した。卵死亡率には年変動もあると考えられるが、経年調査を実施した結果から集団内の卵死亡率は数年単位では比較的安定しており、先に明らかになった大きな集団間変異は空間的要因によって規定されている可能性が考えられた。そこで地理情報を用いた要因解析を行ったところ、森林割合の減少といった市街化と関わる土地利用形態との間に強い関係性が見られた。即ち市街化の進んだ地域の集団で卵死亡率が上昇する傾向がみられた。また、トウキョウサンショウウオはミトコンドリアDNAのcyt-b領域並びに核DNAのマイクロサテライト5遺伝子座を、ヤマアカガエルはミトコンドリアDNAのcyt-b領域を用いた遺伝的多様性解析を行ったところ、卵死亡率の高い集団では遺伝的多様性が低い傾向がみられた。以上をまとめると、野外調査により止水性両生類の卵死亡率には大きな集団間変異が存在することが明らかとなった。また空間要因解析と遺伝的多様性解析の結果から市街化に伴う人為的な環境ストレスや遺伝的多様性の低下が卵死亡率を上昇させる要因として重要であると推測された。


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