| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-249 (Poster presentation)
サケ科魚類の一種サクラマス(Oncorhyunchus masou)は他のサケ科魚類と比べても強い母川回帰性を有し,河川ごとにも強い遺伝的独立性を有するとされる.水産資源として有用なサクラマス資源量は河川改修といった人為的影響によって近年減少しており,全国的に人工種苗の放流が行われている.しかし異なる河川由来の種苗を放流することは,在来集団に対する遺伝的な撹乱を招く可能性がある.現在,石川県でもこれまでに県全域で人工種苗放流が行われており,そのサクラマス集団においては遺伝的撹乱が懸念されているが,サクラマスの遺伝的構造や撹乱の影響が調べられた事例はない.そこで本研究ではサクラマスの遺伝的構造の有無および遺伝的撹乱の影響を調べるために,10遺伝子座を用いてマイクロサテライト解析を行った.サンプルは石川県全域にわたるように10河川で145尾の野生サクラマス幼魚を採集し,その他飼育されている種苗放流用サクラマス幼魚を20尾,合計165尾を解析に用いた.
データ解析はアリルサイズに基づき遺伝統計学的処理を行い,遺伝子型に基づいた集団帰属検定の結果からは石川県10河川および種苗放流用サクラマス集団は大きく3つのグループ(加賀地方,能登地方外浦,能登地方内浦)に分けられた.さらに,遺伝的分化(Fst)が各集団間において確認され,石川県サクラマス集団は地域の河川ごとに異なる遺伝的構造を有していることが明らかとなった.一方,地理的距離と遺伝的分化において相関は見られなかったため,人工種苗放流による遺伝的撹乱が示唆された.