| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-253 (Poster presentation)
寄生者はあらゆる生態系に存在し、種数では現存種の約半数を占めるともいわれる。これまで寄生者が宿主に及ぼす影響を検証する際、宿主個体群内の不均一性はあまり注目されてこなかったが、魚類や哺乳類などの脊椎動物には激しい種内競争が存在する場合がある。種内競争に対する個体の行動的・生理的反応は多様であるため、宿主個体によって寄生に対する脆弱性が異なる可能性がある。
本研究では、寄生の影響が種内競争によりどう変化するか検証した。対象種は、種内に明瞭な階級構造を持つヤマメと、その寄生者であるカワシンジュガイとした。自然河川において寄生・未寄生ヤマメの成長量の違いを同種密度の異なる条件下で比較したところ、密度の高い条件下(=激しい種内競争下)で寄生の影響は強く現れた。こうした観察結果の背景には、高密度条件下で生じる種内地位(優位・劣位)の関与が考えられるため、水槽実験により詳細な検証を行った。実験では1水槽に6匹のヤマメを収容し、寄生魚のみの水槽と未寄生魚のみの水槽の間で、ヤマメの成長量を種内地位ごとに比較した。その結果、劣位な個体ほど寄生の影響を受けやすいことが分かり、種内地位による寄生に対する脆弱性の違いが、自然河川での現象を説明する1つの要因であることが示唆された。このような種内競争による寄生の影響の違いは、個体の生存や移動に影響を与えることで、個体群の遺伝・空間構造に関与しているかもしれない。