| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-259 (Poster presentation)
京都府南丹市にある芦生研究林はニホンジカCervus nippon (以下シカ)の過採食によって植生が衰退しており、下層植生の現存量は不嗜好性植物を除いて極めて少なく、シカの餌資源はほとんどないように見える。しかしこのような環境下でも1~5頭/km2程度のシカの生息が確認されており、シカが何を採食しているのか解明されていない。下層植生が衰退した地域では枯れ葉の採食が報告されているが、実際林内には緑色の落ち葉(以下生落ち葉)が多く落ちており、餌資源として利用されていると考えられる。本研究では生落ち葉を含むリターフォールがシカの餌としてどのような価値があるのか解明し、現在ほとんど餌資源がないと見える芦生のシカの餌環境評価を目的とした。
シカの利用頻度が高そうな場所を6ヵ所選出し調査プロットを設置した。プロット内には自動撮影カメラ2台とリタートラップ3つ、そしてシカ排除区画を3つ設置した。リタートラップは2週間に1回回収し、ソーティングした後に乾燥重量を測定した。シカ排除区画は5月下旬に柵を設置し、9月末に刈り取って乾燥重量を測定した。また、生落ち葉と枯れ葉について栄養価を粗タンパク質・粗脂肪・NDF・灰分の4項目を対象に調べた。
生落ち葉供給量は7月下旬と9月上旬~10月末までの期間で2回のピークが見られた。また、5月末から9月末までの生落ち葉の餌資源供給量は下層植生とほとんど同等であった。生落ち葉の栄養価は枯れ葉と比較すると全体的に高い傾向にあった。以上の結果から、生落ち葉は現在芦生の下層植生が潜在的にシカに供給できる量と同程度の餌資源を供給しており、下層植生が極度に衰退した環境下ではシカにとって重要な餌資源のひとつであることが示唆された。