| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-260 (Poster presentation)
トンボの幼虫は種や幼虫齢によって流水と止水,低温と高温,基質,水生植物の繁茂,常に安定した水のある水域に対する一時的な水溜まりなど,性質の異なる様々な環境に生息している.特にオニヤンマ科のように4~5年と長い幼虫期間を持つ種では,発育段階に伴う選好性の変化を考慮したうえで,生息地の水場が安定して保たれるかなどの条件が不可欠である.本研究は成虫の産卵場所選択と発育段階に応じた幼虫自身の選好性の変化に注目して解析した.その結果,水温や基質など物理的条件に加えて,外来種のアメリカザリガニによる捕食の影響が浮かび上がってきた.
調査は2014年10月から2015年9月に千葉市内の谷津田内で行い,水路に沿って一定間隔で調査地点を設け,オニヤンマの幼虫及び成虫の生息調査を行った.幼虫調査はたも網を用いて捕獲し,体サイズの測定及び環境調査を行った.成虫調査はルートセンサスにより個体数と産卵の有無を記録した.幼虫及び成虫個体数を応答変数,水深,水温,流速,底質(泥・砂),リターの有無,ザリガニの在・不在を説明変数とし,各齢の生息密度に影響を及ぼす環境要因を解析した.
解析の結果,幼虫個体数は流速,底質(砂)に正の相関,水深,水温,リター,ザリガニに負の相関がみられ,若齢ほど選好性が強い傾向が見られた.成虫個体数は幼虫と同様,水深と水温に対して負の相関が見られた.一方で産卵位置と幼虫個体数はあまり関係性が見られなかった.特に産卵地点かつ幼虫個体数が少ない地点の特徴は,ザリガニの在確率が高い,或いは一時的な水溜まりだった.以上より,体サイズの小さい若齢幼虫ほどアメリカザリガニの影響を強く受け,また成虫の産卵位置と幼虫の在確率との関係性は低いことが示唆された.