| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-262 (Poster presentation)

海を越えてやってきたウスバキトンボの産卵特性

*市川雄太・渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

熱帯に広く分布し、渡りを行なう種として知られているウスバキトンボは、我が国において、毎春、南方から渡ってきた成虫が観察され始め、世代を繰り返しながら北上し、夏から秋にかけて全国各地で個体数が急増している。しかし寒さに弱いため、我が国で冬を越すことはできない。摂食活動は開放的な草地の上空で行なわれ、しばしば、数百を超える個体が集まって採餌している姿が観察されてきた。産卵活動は様々な水域で行き当たりばったりに行なわれているようである。これまで、本種はr-戦略者であると考えられてきたが、卵生産と摂食量の関係は明らかにされてこなかった。つくば市の草地において、早朝、摂食活動を開始したばかりの繁殖期の雌を捕獲し、室内で水のみを与えて飼育したところ、捕獲後24時間で8.43㎎(乾重、以下同)の糞を排出した。糞の色は茶褐色で、摂食した小昆虫由来と思われるクチクラ片が多数認められた。しかし、その後に排出された糞は赤褐色で粒は小さく、クチクラ片が消失していた。すなわち、摂食した餌の不消化物は24時間以内に糞として全て排出されたといえる。消化管内を空にさせた雌にヒツジキンバエ1頭(5.42㎎)を与えると、給餌後24時間で4.51㎎の糞を排出した。雌自身の代謝による老廃物由来の糞量は2.23㎎だったので、野外の雌は、毎日、ヒツジキンバエ2.72頭分の重量の餌を摂取しているといえた。この値は約210頭の小昆虫の摂食に換算できる。早朝、野外で捕獲した雌に対して、保持していた成熟卵を全て放出させたところ、その後の24時間で、捕獲時にもっていた栄養を用いて約840個の成熟卵を生産できることが分かった。したがって、本種は、充分に摂食してさえいれば、毎日大量の卵を産下できるという産卵特性をもっており、この特性が個体数急増の要因になっていると考えられた。


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