| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-270 (Poster presentation)
群れ生活には、捕食者回避、採食・繁殖効率の増加といった利点がある。しかし、群れの凝集性を保つためには、それぞれの個体に異なる栄養的、社会的要求がある中で、行動を同調させる必要がある。特に、各個体が同時に、同じ方向に移動を開始しなければ群れの凝集性は保たれない。群れが移動の開始をどのように決定しているのか、野生の類人猿ボノボにおいて検討した。ボノボは複数のオス、メスからなる安定したメンバーシップをもち、メスが群れ間を移籍する父系社会で生活している。離合集散性で、いくつかの部分集団に分かれて行動する。
コンゴ民主共和国ルオー科学保護区にて、PE群に所属する8才以上のオス6個体、メス9個体を対象に研究を行った。推定年齢35才以上を老齢、20から34才を中年、8から19才を若年個体とした。これらの個体は全て個体識別されており、観察者の存在によく慣れている。部分集団を追跡し、5分以上の停止(採食または休息)状態から3個体以上が30m以上移動したとき、最初に動き出した個体が移動の開始を決定し、他の個体が同調したと定義した。
256回の移動が記録された。1回の移動には平均6.1個体が参加した。移動の開始を決定するのはメスであることが多かった。個体レベルではメス3個体において移動開始個体となる割合が期待値よりも多く、メス4個体とオス3個体において期待値より少なかった。移動の開始を決定する割合が期待値より高かった3個体は、全て老齢メスに区分される個体だった。
これらの結果から、ボノボの移動開始の決定において「リーダーシップ」が見られること、老齢のメスが群れの凝集性を保つ中心的役割を果たしていることが分かった。