| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-274 (Poster presentation)
寄生とは,他の生物から資源を一方的かつ持続的に収奪する生活様式のことである.寄生者は質の悪い寄主の回避や操作を通じて,寄主から効率よく搾取するような適応進化を遂げると考えられる. 性的共食いをする生物の雄は雌に共食いされるリスクがあるため,寄生者にとって寄主としての質が低い.よって,性的共食いを伴う寄主は,寄主の質が寄生者の適応進化に及ぼす影響を調べるための良い材料である.
カマキリに寄生するハリガネムシは,その生態から寄主の性を選べないと考えられる.よって,雄のカマキリに寄生したハリガネムシにとって,性的共食いのリスクを避けるように寄主の形態や行動を操作することは適応的だろう.ハリガネムシは雄カマキリの外部形態を変化させるという性特異的な寄主操作を行うが,雄の配偶行動が操作される可能性を検証した例は未だ無い.
本研究は,寄生者による寄主の性依存的な配偶行動操作の検証を目的として,ハリガネムシに寄生されたカマキリを用いた雌雄による配偶行動実験を行った.寄生された雄が共食いを避けるのであれば,雌に関心を示さず,近寄らず,雌に攻撃行動をし,結果的に交尾しなくなると予測される.一方,寄生された雌の配偶行動に変化はないと予測される.
結果は概ね予測通り,寄生雄は雌に関心を示さず,捕食行動を示し,逃避した.結果として,マウント行動と交尾の頻度も低下した.しかし,求愛行動と威嚇行動には有意な傾向はなかった.一方,雌の行動には寄生による影響はなかった.本研究の結果は,ハリガネムシが,質の低い寄主の形態のみならず配偶行動をも操作するような適応を遂げたことを示している.この適応が,寄生者による栄養搾取の副産物であるのか,それとも適応的な寄主操作として進化したのかについては,今後の研究が必要である.