| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-285 (Poster presentation)
動物は食物環境の変動に応じて採食行動を変化させる。その結果であるエネルギーバランスは動物の生存や繁殖に影響する重要な要因である。食物環境の季節変動が大きい温帯にすむニホンザルは、食物の多い時期に余剰エネルギーを脂肪として蓄積することが繁殖成功につながる。これまでは冷温帯林にすむニホンザルの研究が中心であり、暖温帯林にすむニホンザルがどのような栄養状態にあるかはわかっていない。本研究の目的は、屋久島に生息するニホンザルのエネルギーバランスの季節変化およびその決定要因を解明することである。対象は屋久島海岸域に生息するニホンザル2群である。2012年10月から2013年10月の間、個体追跡により成獣メスの直接観察を行い、追跡個体の活動、採食時間、採食品目、単位時間あたりの採食量(採食速度)を記録した。また、GPSを用いて追跡個体の位置を記録した。獲得エネルギー量は行動データと食物の栄養データをもとに推定した。行動データから採食量を推定し、食物の栄養分析を行い粗脂質・粗タンパク質・炭水化物含有量を測定した。消費エネルギー量は活動時間配分と移動距離をもとに推定した。エネルギーバランスは獲得エネルギー量と消費エネルギー量の差分とした。獲得エネルギー量は季節により変動した。果実種子採食の多い秋に最も高く、次いで新葉採食の多い春、昆虫採食の多い夏や成熟葉採食の多い冬に低かった。このパターンには採食速度が影響していた。消費エネルギー量も同様の変動パターンを示したが、獲得エネルギー量に比べ、変動幅が小さかった。その結果、エネルギーバランスも獲得エネルギー量と同様の変動パターンを示した。本研究の結果は、秋に採食速度の大きい果実種子を採食することが栄養状態を通して繁殖成功につながることを示唆している。