| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-286 (Poster presentation)
生物が持つ概日リズムは、光や温度に強く影響を受けるが、社会的相互作用によっても影響を受けうる。哺乳類や社会性昆虫では、群れやコロニーにおける他個体や未成熟個体の存在が、個々の活動に影響を与えることが報告されている。しかし、集団レベルで、与え合う影響の方向や強さなど、個体間相互作用がいかに各個体の活動性を決めるかは、複雑な課題であり未解明な点が多い。
特に、社会性昆虫では育児を行う内勤個体は概日活動性を欠く一方で、採餌を行う外勤個体は明瞭な概日活動性を示す。つまり、タスクによって活動パターンに顕著な変異が存在する。社会性昆虫のコロニーは、数十から数万の個体で構成されており、成虫間の相互作用が常にあるが、行動の異なるワーカーたちが相互作用を介して発現する集団下での活動パターンはほとんど分かっていない。
集団レベルでの個々の活動の統合性を解析する第一段階として、我々はトゲオオハリアリを用いて、内勤と外勤という行動の異なるワーカーが混ざり合う様々な状況を作成し、ワーカー間の相互作用が個々の概日リズムに与える影響を解析した。単独条件から5個体までのグループ条件で動画を撮影し、画像処理に基づいた複数個体の歩行活動トラッキング技術により、活動パターンを解析した。その結果、内勤個体のみのグループでは個々の概日リズムの強さが増加したが、外勤個体のみのグループでは各個体の概日リズムが失われた。このことから、トゲオオハリアリにおいて、成虫間の相互作用は概日リズムに影響を与えるが、その影響は、内勤・外勤という行動カーストごとに反対の効果があることが明らかになった。この結果から、社会性昆虫における社会的相互作用を通した概日リズムの柔軟な変化の役割を考察する。