| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-287 (Poster presentation)
動物行動学における個性とは『個体間に見られる一貫した行動の違い』と定義され、近年になって幅広い生物種でその存在が報告されてきている。個性は遺伝子などの先天的要因で決まっている部分もあるが、経験などの後天的要因によっても変化していく。個性の形成メカニズムを理解するうえで、発達過程における個性の安定性や変化を扱う研究が求められている。このような研究を遂行するにあたり、遺伝子要因を揃えて後天的要因の影響のみを抽出できるという点で、クローン動物は理想的な対象である。
本研究では、飼育下で誕生したクローン個体を類似した環境で飼育し、発達過程を通して個性を観察した。対象動物としたオガサワラヤモリ Lepidodactylus lugubris は単為生殖をおこなう非常に稀な爬虫類の一種であり、自然下に生息するクローン個体同士には個性の違いが確認されている。実験では孵化直後から継続的に個性を評価し、性成熟を迎えるまでの1年間観察を続けた。個性形質のなかでも大胆さに着目し、捕食者リスクを避ける隠蔽行動をその指標とした。短期的には3日間連続で実験をおこない時間的な行動の一貫性を評価し、長期的には2ヵ月ごとに実験を繰り返して個性の安定性を評価した。
孵化直後はどの個体も大胆であり、隠蔽行動の傾向に個体差はなかった。成長するにつれ行動傾向の一貫した違いがみられ、1歳齢の成体間では明確に個性の違いが確認された。また同一個体の個性は成長段階を通して大きく変化し、個性の変化に規則性は見られなかった。類似した環境で飼育したクローン個体がそれぞれ異なる個性の変遷を示したという結果は、偶然に生じる僅かな後天的要因の違いが個性形成に大きく影響している可能性を示唆している。