| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-291 (Poster presentation)
芦生研究林ではニホンジカ(以下、シカ)の増加に伴う採食圧の増大によって下層植生が衰退している。研究林内にある湿原の植生はシカの影響により、不嗜好植物であるイグサとイワヒメワラビの優占する群落に変化してきている。この湿原に、約50m2の3つの防鹿柵プロットを設定し、月に開放する日数を変えて、シカの採食に起因する植生の変化をモニタリングした。本研究ではDNAバーコーディングを用いてシカの糞から植物DNAを抽出し、防鹿柵の開閉がシカの採食に与える影響を、シカの糞のDNAバーコーディングで明らかにすることを目的とした。
柵の開放日数はプロットによって異なっており、7月、8月、9月に防鹿柵の開閉処理を繰り返した。毎月の開放日数は、0日(A)、2日間(B)、4日間(C)、8日間(D)、16日間(E)とした。これに柵のないプロットFを加えて6種類の処理を 1セットとした試験区を3つ設定した。防鹿柵の開閉スケジュールにあわせてシカの糞を3糞塊以上採取し、持ち帰って冷凍庫に保管した。DNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN)を用いて糞から抽出された植物DNAのtrnL P6 loop領域について、PCR増幅し次世代シーケンサーで塩基配列を決定した。得られた塩基配列を、別途自作した芦生研究林内で採取した182種の植物のDNAデータベースと照合し、植物の同定を行った。
7月の結果では、全体で23種の植物が検出された。柵内に生育する草本植物のヌマトラノオやノイバラの割合は、開放前はヌマトラノオで最大1.1%、ノイバラは検出されなかったが、開放後はそれぞれ最大64%および9%に増加した。これにより、柵内の植物の採食がDNAバーコーディングによって確認された。