| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-293 (Poster presentation)
日本の干潟域においては,ヒモハゼEutaeniichthys gilliやウキゴリ属の複数種のハゼ科魚類がアナジャコ類・スナモグリ類などの甲殻類の巣穴を利用することが知られている.しかし,これらの巣穴利用については,断片的,定性的な報告例がほとんどであり,定量的な知見は少ない.そこで,本研究では,野外調査と室内実験からハゼ科魚類の巣穴利用の特異性を定量した.
野外調査では,徳島県吉野川河口の,ヨコヤアナジャコUpogebia yokoyaiとニホンスナモグリNihonotrypaea japonicaが同所的に分布する干潟において,両種の巣穴内生物を吸引採集した.その結果,ヒモハゼは,どちらの巣穴からも採集されたのに対し,チクゼンハゼGymnogobius uchidaiはニホンスナモグリの巣穴から有意に多く採集された.また、エドハゼG. macrognathosやニクハゼG. heptacanthusはヨコヤアナジャコの巣穴から有意に多く採集された. 室内実験では,水槽内にてヨコヤアナジャコとニホンスナモグリに巣穴を構築させ,ヒモハゼとチクゼンハゼの巣穴利用行動の定量観察を行った.その結果,ヒモハゼは,どちらの巣穴も利用し,平均24%の時間を巣穴内で過ごしたが,その利用は断続的であり,およそ数秒から数分の出入りを繰り返した.チクゼンハゼは,ヨコヤアナジャコの巣穴には平均6%の時間,ニホンスナモグリの巣穴には平均47%の時間を巣穴内で過ごしており,ニホンスナモグリの巣穴を有意に長時間利用した.野外調査と室内実験の結果がほぼ合致したことから、チクゼンハゼは高い宿主特異性を持つことが認められた.ウキゴリ属では複数種がアナジャコ類・スナモグリ類の巣穴を利用することから、種間で巣穴利用のニッチ分化が起きていると推察される.