| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-295 (Poster presentation)

なぜ嫌う?シカが忌避するタヌキのため糞場

*長野秀美(京大・農), 福本繁(自営業), 高柳敦(京大・農)

京都府内では、シカの個体数増加により、様々な場所で森林の下層植生が著しく衰退している。京都府内の4ヶ所の下層植生が衰退した森林(芦生、芹生、八丁平、日吉)で計33個のタヌキのため糞場に生える植物を観察したところ、そのような森林であっても、タヌキのため糞場では、植物がシカの採食を免れ、生い茂っていた。さらに詳しく調査をすると、ため糞場内の実生の種数、ラメット数、サイズはいずれも、ため糞場外よりも有意に大きな値であることが分かった。同時に、芦生でカメラトラップを設置し、ため糞場でのタヌキとシカの行動を記録したところ、シカがため糞場を忌避する行動が観察された(長野ら 2014)。この忌避行動の要因を解明するため、糞の臭いに着目し、シカが森林で遭遇しうる哺乳動物11種(シカ、カモシカ、ウサギ、サル、イノシシ、クマ、タヌキ、アナグマ、キツネ、ハクビシン、テン)と、オオカミ、ライオンの計13種の動物の糞の臭気分析をGC-MSによって行い、臭気成分構成の類似性をnMDSを用いて調べた。また、それらの糞の臭いに対するシカの反応を調べるために、奈良公園で鹿せんべいを用いた給餌実験をおこなった。臭気分析の結果、食肉目の動物の糞の臭気成分構成は互いに似ており、他の目の動物の糞の臭気成分構成とは異なっていた。また、多くのシカは、食肉目の糞の臭いがする場合には、鹿せんべいを食べずに、逃避する行動を示したので、食肉目の糞の臭いを忌避する傾向があることが分かった。これらの研究から、1, タヌキのため糞場は、森林更新において実生をシカの捕食から守る役割がある。2, シカはタヌキのため糞場に対して忌避的な行動を示し、その行動の至近要因は「食肉目の糞の臭い」である。ということが明らかになった。


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