| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-306 (Poster presentation)

絶滅危惧種ヒヌマイトトンボの生息地決定要因-ヒヌマイトトンボは静かに暮らしたい-

*寺本悠子(筑波大院・生命環境)

ヒヌマイトトンボの生息地は分断されて小規模に存在し(世界総計約40箇所)、発見された生息地の半数が壊滅状態にあるため、絶滅危惧種Ⅰ類に分類される。本種はヨシに依存した生活史をもつ一方で、ヨシは世界各地で見られる汎存種であることから、ヨシ群落に本種が生息するには何らかの条件が必要と考えられるが明らかにされていない。一般的に、蜻蛉目の生息環境にとって植生構造は重要な役割を果たすことが知られており、蜻蛉目成虫の観察結果から種ごとに植生構造の選好性があることが明らかとなっている。

本研究は、ヒヌマイトトンボの生息地となるヨシ群落内のシュートが形成する群落構造に着目した。本研究は、本種の保全を目的として三重県伊勢市で創出された人工生息地と、これに隣接する自然生息地(既存生息地)について、ヨシのシュートが形成する群落構造の変化と本種成虫が示す生息地決定行動の変化を比較することで、ヨシ群落の構造が成虫個体群の行動に及ぼす影響を明らかにした。

創出4年目(2006年)以降の人工生息地を既存生息地と比較すると、ヨシのシュートの植生高は同程度だが茎径は細く、高密度なヨシ群落が形成されている。成虫行動の比較では、雌の変化はないが、雄は2006年以降、人工生息地の方が既存生息地よりも飛翔・対峙(向かい合って飛翔する)行動の個体が減少し、交尾と静止を示す個体が増加した。したがって、茎径が細く高密度なヨシ群落は本種の雄の干渉行動を減少させ、本種の繁殖にとって好適な行動を増加させる。さらに他の本種生息環境と比較したところ、人工生息地のヨシ群落が作る空間の閉塞性が、ヒヌマイトトンボの繁殖地の成立に影響する可能性が示唆された。


日本生態学会