| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-308 (Poster presentation)
地球環境変動等による乾燥化が樹木を枯死させ、森林生態系における炭素貯蔵や生物多様性に深刻な影響を及ぼしている。乾燥化による将来の森林衰退を予測するためには樹木枯死の生理メカニズムの理解が必要である。現在、乾燥による樹木枯死のメカニズムとして「木部道管の通水欠損による枯死」と「炭素欠乏による細胞の代謝不全による枯死」の2つの仮説が有力視され、未だ結論がついていない。本研究では、呼吸活性と糖の師部輸送阻害の過程を含めることで、通水欠損と炭素欠乏の両仮説は独立しておらず、連続した過程であるという新しい樹木枯死の生理メカニズムを提案する。
小笠原諸島父島に生育するシマシャリンバイの成木を対象に、健全度の異なる個体間で生理特性を比較した(健全、枝枯れ(部分的)、枯死直前、枯死の計4個体)。「健全」に比べ、「枝枯れ」の通水性は根から中間幹までの間で低く、「枯死直前」では根から先端枝までも低かった。「健全」と比べ、「枝枯れ」も木部糖量は地際で少なく、「枯死直前」は中間幹で糖量が非常に多く、地際では著しく少なかった。「健全」に比べ、「枝枯れ」と「枯死直前」の呼吸速度は先端枝、中間幹で顕著に低く、「枯死直前」は地際でも低かった。これらの結果は、通水欠損や糖欠乏に先立ち呼吸が低下することを示している。呼吸によって生成されるATPは細胞の代謝に関わるだけでなく、糖の膜輸送でも利用される。以上から、我々は「乾燥による呼吸低下がATPを減少させ、葉から根にかけての糖の師部輸送機能を阻害する。その後根や地際木部は、糖が欠乏し細胞の代謝を維持できなくなり、損傷や細胞死する。その結果、根の吸水不全や道管の通水欠損が起き枯死に至る。」と新たな仮説を立てた。